「マグニチュードが違う」エージェンティックAIが組織にもたらす変革の本質
2026年春に開催されたDASA JAPANの「DASA 自律型AI組織変革(エージェンティックAI)ブートキャンプ」第1期に参加した、株式会社NTTデータSMS※のビジネス推進本部に所属する吉田光徳シニア・エキスパートと小平春希主任に、受講のきっかけから現場での気づき、そして組織変革への展望までを伺った。
ビジネス推進本部、主任小平春希氏とシニア・エキスパート吉田光徳氏
※ 株式会社NTTデータ SMS…NTTデータグループ唯一の「運用管理(ITSM)」特化企業として1995年設立。地方自治体・官公庁・金融機関など社会インフラを支えるミッションクリティカルなシステムを24時間365日体制で守り、システム運用コンサルティングや自動化ソリューションも提供するITサービスマネジメントのプロフェッショナル集団。
「ガンガン使っている」からこその不安
——まず、お二人の業務内容と役割を教えてください。
ビジネス推進本部のデジタルイノベーション統括部 コンサルティングビジネス推進部、運用コンサルティング推進担当に所属しています。コンサルティングやアセスメントを行う部署です。直近の3月末までは全社のコンサルティング力強化に向けたワーキンググループの事務局を務め、現在はそこで決まった方針をもとに具体的な推進を行う役割を担っています。
小平さんと同じ担当なので、ほぼ一緒にプロジェクトを進めています。ITSMの高度化を見据え、現場ごとの対応にとどまらず、全社で再利用できる運用・ITSMアセットの創出に注力しています。ITIL研修の企画や人材育成、必要に応じた現場支援を行いながら、直近では当社としての運用コンサルティングの考え方や定義を整理し、形にしていく役割を担っています。
——業務・プライベートでのAI利活用について教えてください。
業務では社内推奨のAIツールをふんだんに活用していて、メールの返信整形や、伝えたい要素をまとめてビジネス文章に整えてもらう使い方が定着しています。生産性は格段に上がりました。プライベートでは音楽が好きで、「Suno AI」で作詞作曲から演奏・ボーカルまで生成する趣味に没頭しています。曲の雰囲気だけ指定したり、自分で書いた歌詞にメロディをつけてもらったり、あれこれ試していると、あっという間に5~6時間過ぎてしまいます(笑)。
ドキュメントの叩き台作成、アイデア出しの壁打ち、時事ニュースの背景の深掘りなど様々な用途で活用しています。たとえば最近では、社内の多くの担当者から情報を収集するにあたり、まだ設計段階にあるExcel形式の項目案について、観点の抜け漏れや粒度のばらつきがないかをAIにレビューさせるといった使い方をしました。最終判断は人が行う前提ですが、客観的なチェック役として非常に有効だと感じています。また、ニュースの深堀といった情報収集の場面でも、ネット検索だけでは把握しづらい背景や論点整理を行う際に、あくまで参考情報としてAIの整理結果を活用することが多くなりました。鵜呑みにするのではなく、考えるための材料として使うことで、思考のスピードや質が上がっている実感があります。
——便利さの裏で、不安を感じることはありますか?
業務となると便利なのでガンガン使っているのですが、これをやり続けると、いざという時の思考力や、対面でのコミュニケーションの時に自分の言葉がサッと出せるかというと、「ちょっとまずいなぁ」という矛盾した不安を感じています。常に「少し待ってください、AIに聞いてみます」とは言えないですからね。
語彙力とか、AIを通した自分と実物の自分とのギャップができてしまいそうで、そこには危機感を持っています。
「マグニチュードが違う」——世界の見え方が変わった瞬間
——ブートキャンプへの参加動機を教えてください。
「エージェンティックAI」という言葉は耳にしていたものの、参加前は自分にはまだ遠い存在という印象でした。プロンプトエンジニアリングより一段高い、組織変革という視座で学べる機会だと知って、すぐに手を挙げました。
社内でもAIエージェントを使いたいという話が出ていたタイミングで、PoCの壁をどう打破するか、AIをどう組織変革に結びつけるか、その戦略を学びたかったです。
——最も印象に残ったエピソードを教えてください。
考えがガラリと変わった瞬間がありました。ディスカッションの中で出た「エージェンティックAIによる組織変革は、これまでのRPAなどによる業務変革とはマグニチュードが違う」という言葉を聞いた瞬間、スイッチが入りました。単に新しい知識が増えたというより、世界の見え方そのものが変わったような体験でした。
グループワークの議論では「会社同士のやり取りもAI同士が行うようになり、AIとAIのコミュニケーションでビジネスが成立していく」という発想まで広がりました。AIと向き合う上では、10歩先まで考えておかなければいけないと痛感しました。
対面で他社の参加者と議論できる環境も大きかったです。休憩中もフランクに話せたので、他社の方々との交流で視野が広がりましたね。
技術だけではない——「両輪」の必要性と残された課題
——ITSMのプロとして、どのような気づきがありましたか?
最大の学びは「技術と組織変革の両輪」という視点でした。これまでAI活用というとセキュリティや技術環境など技術寄りの話が中心でしたが、組織のあり方も変えていかないと本当には使いこなせない。その両輪が必要だと気づけたのは非常に大きかったです。ただ、これを組織全体で進めるのは一筋縄ではいきません。担当者1人だけでなく、会社全体として同じ思想になっていく必要がある。待ったなしの状況ですが、長い道のりにもなると感じています。
これまで、AIは業務を効率化するための”便利な道具”という捉え方をしていました。IT運用を軸に、比較的業務寄りのコンサルティングに携わってきたことも、その背景にあると思います。ただ、エージェンティックAIに触れる中で、その考え方では足りないと感じました。組織変革を前提とする技術である以上、自分も変革の外野ではいられません。「システムの部外者」にならないことを改めて自分自身に言い聞かせました。
学びを現場へ——ITSMとエージェンティックAIの融合へ
——今後、ブートキャンプの学びをどう業務に活かしていきますか?
自社にあるアセットの活用など、全社的なITSM高度化の施策にエージェンティックAIの視点を組み込んでいきたいと考えています。現場支援の場面でも、エージェントが担える部分を整理し、人が考えるべき領域とAIに任せられる領域を融合することで、全体としての生産性を高める設計にしていくことが次のステップだと思っています。
コンサルティング業務で、お客様の課題を整理・分析するプロセスにエージェントを組み込む可能性を探っています。ブートキャンプで学んだトランスフォーメーション計画の立て方は、そのまま支援業務にも活かせると考えています。まずは小さく試して、成功体験を積み重ねていきたいです。
モヤッとしている人こそ、来てほしい
——参加を検討している方へメッセージをお願いします。
AIを使いたいという組織なら、あらゆる企業にとって有用だと思います。参加前に明確なユースケースが100%決まっていなくてもいい。むしろ自分の業務とAIの関係がモヤッとしている方こそ来てほしいです。明確な答えをもらいに行く場所というより、DASAのフレームワークや他社との意見交換を通じて良い気づきを得て帰れる場所です。
組織を動かす立場にある人にこそ、この変革のマグニチュードを肌で感じてほしいです。組織を牽引する立場の方が先行して受けると、変革のスピードが格段に上がります。AIのパフォーマンスへの理解があると、その分、より多くの示唆を持ち帰っていただけると感じています。
取材・文:中川悦子(DASA JAPAN) 2026年4月
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吉田 光徳 氏 株式会社NTTデータSMS ビジネス推進本部 デジタルイノベーション統括部 シニア・エキスパート ITIL Masterとしての知見を活かし、ITSMの高度化を見据え、全社で再利用できる運用・ITSMアセットを創出。ITIL研修の企画や人材育成、必要に応じた現場支援を行いながら、当社としての運用コンサルティングの考え方や定義を整理し、形にしていく役割を担う。 |
小平 春希 氏 株式会社NTTデータSMS ビジネス推進本部 デジタルイノベーション統括部 主任 全社のコンサルティング力強化を牽引。グループワークの事務局として方針策定を推進し、現在はその具体的実行フェーズを担う。 |