「体ひとつで飛び込んだら、世界が変わった」
MKIテクノロジーズ株式会社 デジタル&プラットフォーム統括が語る、AI組織変革への道筋
2026年春に開催されたDASA JAPANの「DASA自律型AI組織変革(Agentic AI)ブートキャンプ」に参加したMKIテクノロジーズ株式会社 デジタル&プラットフォーム統括の野口氏に、ブートキャンプでの学びとAI組織変革への展望を伺った。
MKIテクノロジーズ株式会社 デジタル&プラットフォーム統括 野口 秀人氏
* MKIテクノロジーズ株式会社(略称:MKItec)は、システムインテグレータである三井情報株式会社(MKI)の100%子会社で、MKIグループの一員。エンタープライズ向けのITインフラ運用・保守、サービスデスク、シェアードサービスを主軸に、グループ企業を中心とした大手企業のIT基盤を支える総合運用・保守サービス会社。
新卒から一筋、インフラ運用からAI推進へ——キャリアの軌跡
——まず、野口さんのお仕事について聞かせてください。
所属部署の名称が、今年度から「デジタル&プラットフォーム統括」に変わりました。元々はサービスデスクという名称で、大手顧客のインフラシステム――ネットワーク、クラウド、PC端末――の運用保守を担っています。私自身のキャリアはプログラマー・テスターから始まり、上流工程、顧客折衝を経て、最終工程である運用フェーズを今、担っています。新卒からずっとこの会社です。合併や社名変更はありましたが、所属は変わっていません。
もう一つの顔として、部門横断の人材育成と組織改革も担っています。AIをどう組織に取り込んでいくか、という全社的なテーマを、上層部と連携しながら推進する立場です。今年4月の組織改編を機に、全社的にAI活用を推進する動きが本格化し、私もその流れと連動しながら、現場でアクションを起こしています。
AIは日常業務のパートナーに——現場と個人での使いこなし
——普段のAI活用についても教えてください。
会社では、Copilotを活用しています。私は部署ごとに週5〜6コマ、その使い方をレクチャーしています。「RAGって何?」「エージェントと普通のチャットAIはどう違う?」というところから、一つひとつ丁寧に伝えています。
個人では、有料のGeminiをもう手放せません。仕事の悩みから日常の愚痴まで、全部Geminiが知っています(笑)。旅行プランも飲食店の候補も、自分の好みを踏まえて提案してくれる。本当に自分専用のエージェントです。
他には、町内会のスケジュール管理サイトをバイブコーディングで作りました。メンバーから「あれもして欲しい」と要望が来るたびに、自然言語でAIに頼んですぐ反映できる。以前は面倒だったことが、全然違う手軽さになりました。子供のサッカークラブのポスターをGeminiで作ったりもしていて、プライベートでもAIはすっかり頼れる相棒です。
社内での展開は、「アシスタント」→「オペレーター」→「エージェント」という3段階でステップアップしていく構想で進めています。ローコード・ノーコードのエージェント開発ツールを使い、自分たちのエージェントを作る取り組みも始めています。
体ひとつで飛び込んだブートキャンプ——2日間で腹落ちしたこと
——ブートキャンプへお参加のきっかけを教えてください。
正直なところ、事前に内容をじっくり読み込む時間がないまま参加しました(笑)。長年お付き合いのある教育パートナーから「こういう研修がある」と紹介を受け、「彼がすすめるなら間違いない」と、稟議書を急いで書いて許可を取り、当日は体ひとつで飛び込んだ、という感じです。
ただ、タイミングは最高でした。ちょうど「AIを軸に会社を変えていく」という役割を担い始めたところでしたから。参加してみると、ITILやDevOpsといった自分がこれまで身につけてきた知識が、「AIを起点とした組織改革」という文脈でひとつに体系化されていて、深く腹落ちしました。
——2日間を振り返って、印象に残ったことは?
まず強く感じたのは、「AIは銀の弾丸ではない」ということです。私自身、日頃から同じように感じていたことを、改めて明確に再認識できた瞬間でもありました。どう組織に取り入れるか、そのプロセスや対話のあり方こそが、組織改革には不可欠だと理解しました。
特に印象的だったのは、大手コンサルファームご出身のある参加者とのやりとりです。「Power BIを導入しようとしていたが、そもそもデータレイクという設計思想自体が古くて、データメッシュやデータファブリックへ移行しつつある」という話に衝撃を受けていました。私自身、数年前にデータレイクとダッシュボードの構築・保守をお客様に導入していた経験があり、「スピード感が遅い、限界を感じていた」という感覚と一致して、お昼を一緒に食べながら議論が弾みました。
「現場にデータがあり、AIがそれを束ねる。聞きたい人がAIに直接聞けばいい。そうなると中間管理職はどうなるんだ」という議論まで発展して、その方が「あ、そういう世界なんだ」と腑に落ちた瞬間が、すごく印象的でした。
また、「出島を用意する」というキーワードも印象的でした。AIのスピード感に対応するために、既存組織のルールや稟議から切り離した実験場を先に作って、そこで素早く試していく。トップダウンで一気に変えるのではなく、現場ありきで、まず動ける場所を作る。その発想はすごく有効だと思いました。
また、運用部門ならではの課題もあります。当社には開発や構築に強みを持つエンジニアもいれば、お客様のシステムを日々愚直に維持し続けるオペレーターに近いメンバーもたくさんいます。一足飛びに全員をトップエンジニアに育てることはできない。だからこそ、メンバーそれぞれの歩幅に合わせて伴走しながら、組織全体を底上げしていくことが私の役割だと思っています。
「プラットフォームエンジニアリング」——部署名に込めたビジョン
——特に刺さったキーワードはありましたか?
「プラットフォームエンジニアリング」です。部署名に今年度から「プラットフォーム」という言葉が入ったことにも、まさにそこへ向かっていきたいという組織の方向性を感じています。単なるインフラの維持ではなく、事業会社に近いところで、ビジネスのスピードを上げ、AIやデジタルを自在に使える基盤を作り上げていく。それが今の私たちが目指す姿だと思いました。もっと深く学びたいと思っています。
——ブートキャンプで学ばれたことを、業務になにか利活用されましたか?
ブートキャンプの内容をまだ読み返せていないのが正直なところです(笑)。4月から走りっぱなしで、もう一回立ち止まって整理しなきゃと焦っています。「キャンプ地を定める」という考え方を使って、現状分析と目標設定をちゃんとやらなければ、と。共通認識をつくっていくこと、それが次のステップだと感じています。
多様な参加者と生まれた一体感——このブートキャンプは誰のためのものか
——ブートキャンプでは、どんな立場の人が参加していたのですか?
同じ回には大手SIerご出身の方、コンサルファームご出身の方、そして全く異なる事業領域の方々が混在していました。ITに近い人もいれば、事業サイドの方もいる。最初は「みんな思い描いているものが全然違う」状態でした。
でも2日間を通して、ワークショップ形式でグループに分かれ、各テーマを議論・発表していく中で、なんとなく「こういう世界観にしていかなきゃいけないんだね」という共通認識がじわじわと形成されていった。利害関係のないメンバーだからこそ、自社の事情を率直に話せる。最後はみんなで写真を撮るくらいの一体感が生まれました。立場が違うからこそ、それぞれのレイヤーで深い学びがある。「コンサルレベルじゃないと無理」でも「現場の話ばかりで上流には合わない」でもなく、どこにいる人でも自分の文脈で受け取れる設計になっていると思います。
これから受講を検討する方へ——「AIは明るい話だ」
——参加を検討している方へ、メッセージをお願いします。
「どこかのベンダーのソリューションありきの研修」と違い、ベンダー色がまったくない。国際標準のDASAの枠組みで、製品に縛られない考え方を体系的に学べる点が、このブートキャンプの最大の特徴だと思います。
立場を問わず学びがあります。経営層、現場マネージャー、人材育成担当、事業改革を担う方、どのレイヤーでもそれぞれの気づきが得られる。だからこそ、うちの上司にもぜひ受けてほしいと思っています(笑)。
そして何より、AIの話は「明るい話」なんです。個人レベルで言えば、私はもうGeminiなしでは生きられません(笑)。仕事の悩みから日常の愚痴まで、全部Geminiに打ち明けています。そのワクワク感を、社内でAIに頑なな人を巻き込むときも前面に出していこうと、このインタビューを通じて改めて気づかせてもらいました。
——様々な立場の方との語らいが刺激だったようですが、1社で実施することについてどう思いますか?
AIを組織として意図的に取り入れようとするとき、一番の壁は「社内で共通認識が持てない」ことだと思います。経営層はDX推進と言い、現場はツール導入と捉え、人材育成担当は研修設計と考える。みんながバラバラの絵を描いている状態では、何も動かない。
このブートキャンプを1社で受講すれば、その共通認識を作る場になります。通常の会議では立場や上下関係が出てしまいますが、研修という場はフラットな対話が生まれやすい。「うちの会社のAI、どこに向かうべきか」を、部門を超えて初めて腹を割って話せる機会になるのではないかと感じています。
取材・文:中川悦子(DASA JAPAN) 2026年4月
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野口 秀人 氏 MKIテクノロジーズ株式会社 デジタル&プラットフォーム統括
新卒から一貫して同社に在籍。プログラマー・テスターとしてキャリアをスタートし、システム構築・導入・上流設計を経て、現在は大口顧客のインフラ運用を担う。並行して、部門横断のAI推進・人材育成・組織改革にも携わる。 |